宮内庁HPよりのコピペ
皇太子殿下のお言葉


皇太子殿下の外国ご訪問前の記者会見の内容
1 ご訪問国  : ベトナム
2 ご訪問期間: 平成21年2月9日〜2月15日
3 会見年月日: 平成21年2月5日
4 会見場所  : 東宮仮御所

記者会見をなさる皇太子殿下

<宮内記者会代表質問>

問1
昨年,日本との外交関係樹立35周年を迎えたベトナム国へ訪問するに当たっての抱負をお聞かせください。初めての社会主義国のご訪問となりますが,ベトナムにどのような印象をお持ちでしょうか。ベトナムには大規模な内陸水路網があり,ベトナムを含め中国やタイ,ラオスの国境などアジア各国を流れるメコン河の視察も日程に組み込まれています。水問題についても関心を深められる日程と拝察しますが,視察先への期待や興味もお聞かせください。

皇太子殿下

昨年外交関係樹立35周年を迎えたことを機に,ベトナム国からのご招待により,この度,初めてベトナムを訪問することができますことを大変うれしく思っております。ご招待いただいたベトナム国に対して心から御礼を申し上げたいと思います。日本とベトナムとの関係は,現在,あらゆる分野で緊密化していると聞いており,私の訪問が,両国及び両国民の友好親善の一層の促進に貢献できるようであれば幸いです。また,今回のベトナム訪問は,私にとって,メコン地域への初めての公式訪問となることから,同地域の日本にとっての重要性を実感し,同地域と日本との更なる関係強化を図っていくためにも,今回の訪問が意義深いものとなることを希望しております。メコン地域への訪問としては,以前にタイ国を訪問したことがあります。その折,飛行機が今回訪問する予定のベトナム中部の町,ダナン市の上空を飛行したことをよく覚えています。
ベトナムといいますと,戦争による痛手と長年にわたる困難な時代を乗り越え,国民一人一人が国造りに努力され,近年目覚ましい発展を遂げている,活力に満ちた力強い国という印象があります。また,ベトナムの方は,向上心が高く勤勉であるとの評判も耳にします。食料の自給率は100パーセントを超え,石油,天然ガスなどの豊富な天然資源にも恵まれています。日本とベトナムは,米を主食とし,箸を使い,漢字を取り入れる等の共通の文化や歴史を持っており,親しみやすさを覚えます。
ベトナムと日本との間には,近年の関係発展だけでなく,永い交流の歴史があります。古くは,古今集に歌が残されている阿倍仲麻呂ベトナムを訪れていますし,16世紀から17世紀にかけて,朱印船貿易の時代に最盛期を迎え,数多くの我が国の商人が訪れ,当時東西交易の拠点として栄えた中部の港町ホイアンには日本人町がつくられ,北部のフォー・ヒエンも交易港として栄えていました。我が国よりは,銅や銅銭が主に輸出され,ベトナムからは,生糸,沈(じん)香,砂糖,陶磁などが主に輸出されていたようです。今回の訪問で,そのホイアンを訪問し,当時の日本人町や交易品の出土品などを見ることを,とても今から楽しみにしております。
また,中部の古都フエを訪れる際,フエ音楽院でベトナムの伝統音楽ニャーニャックの演奏を聞く機会があるというふうに聞いています。日本の雅楽ベトナムのニャーニャックは同じ漢字表記をし,日本の雅楽の中には,8世紀にベトナム中部にあった林邑(ゆう)国の僧侶(りよ)によって伝えられた舞楽があり,「林邑(ゆう)楽」として現在も皇室に伝わっていることからも,日本とベトナムの縁(えにし)を感じます。
現在の日本とベトナムの両国関係は,「アジアの平和と繁栄のための戦略的パートナーシップ」を構築していくことに合意するほどに緊密になり,一昨年には,チエット国家主席国賓として来日されました。両国間で経済連携協定も合意され,今後,経済関係はますます発展することが見込まれます。毎年約40万人の日本人がベトナムを訪れ,3万人以上のベトナムの方が我が国を訪問し,大変身近な国になっていると伺っています。
このような中で,昨年,両国は外交関係樹立35周年を迎えました。9月には,これを記念して,ベトナムフェスティバルが催され,私も開会式に出席する機会を得ました。このフェスティバルには15万人もの人々が集まり,私は,そこに集う両国の人々の熱気と活気を強く感じました。
このような両国の関係を更に強化し,信頼と友好の絆(きずな)を確かなものとしていくためには,特に,若い世代の活躍が大切であると考えます。今回の訪問では,ハノイではグエン・ディン・チェウ小中学校を,フエではフエ音楽院を,ホーチミン市では日本・ベトナム人材協力センターを訪問することとしておりまして,また,日本人学校の訪問やベトナムで活躍されている青年海外協力隊の皆さんとお会いすることも予定されております。両国の若者たちの活動を目にし,話を伺うことを楽しみにしています。
今回の訪問では,日本との縁(ゆかり)が深い場所や文化,ベトナムの美しい自然を視察させていただくとともに,チエット国家主席への表敬や,ゾアン国家副主席,各地方政府の長との会見,日ごろから両国の友好関係の構築に貢献されているベトナムの方々や,在留邦人の方々とお会いする機会が予定されています。そのような貴重な機会を通じ,両国の友好関係の一層の緊密化に貢献できればうれしく思います。また,それとともに,私自身,ベトナムの国と人々への理解を深めていきたいと思っております。
メコン河については,今回間近に見るのは初めてですが,私の個人的な研究テーマである水や水運の観点も含めて,メコン河についてこの機会にいろいろと知りたいと思います。私は,一昨年,国連事務総長からの要請を受け,国連「水と衛生に関する諮問委員会」の名誉総裁に就任いたしました。メコン河は,中国・ミャンマーラオス・タイ・カンボジア・ベトナムを流れる国際河川です。メコン河流域では,豊かな自然にはぐくまれた農作物を中心とする流域国間の交流が盛んであり,その過程で水利用や水運に関する国際協力の枠組みが形成されていると聞いております。訪問するベトナムは,メコン河の最下流に位置し,メコン河によって形成された下流の肥沃(よく)なデルタ地域は世界有数の穀倉地域でありベトナムの経済を支えている一方で,ときには洪水による被害に悩まされてきたと聞いています。このようなアジアの大河の状況を直接見ることができる機会を楽しみにしています。
また,本年は日本とメコン地域の国々との交流年ということで,日本とメコン地域との関係を強化するために様々な交流行事が行われると聞いております。このような特別の年に,ベトナムを訪問し,メコン河を実際に視察できることをうれしく思います。

問2 今回のベトナム訪問について,妃殿下が同行されるか検討が続けられたとのことですが,同行されないことになりました。ご体調を考慮してのことと思いますが,最終的にどのような判断だったのか,今後の両殿下での外国訪問実現への見通しを含め,殿下のお考えをお聞かせください。

皇太子殿下

今回,ベトナム国からご招待を頂いたことを雅子も大変有り難く思っており,お伺いできないことを,本人はもとより,私も残念に思っております。外国訪問は,日本と諸外国との相互理解と友好親善を増進する上でも大切なものであると考えておりますが,同時に,雅子は,依然として病気治療中であり,外国訪問については,移動距離,訪問期間,訪問中の行事などの観点から,慎重な判断をする必要があります。今回の訪問についても,お医者様とも相談の上で総合的に判断して私一人で訪問することといたしました。お招きいただいたベトナム国の方々のご厚意におこたえできないことを申し訳なく思っておりますが,ご理解いただきたく思います。

今後の外国訪問については,ケース・バイ・ケースでお医者様と相談しつつ判断することになろうかと思います。基本的には,前からお話ししているように外国訪問は我が国と諸外国との友好親善を増進する上でも良い機会であり,今後とも大切にしていきたいと考えております。いずれにしましても,雅子としては少しでも多くの公務ができるように頑張っておりますので,長い目で温かく見守ってくださるようお願いいたします。


<在日外国報道協会代表質問>

問3 今回のベトナム訪問は昨年6月のブラジル訪問以来,4カ国目の海外ご訪問となります。
殿下のご関心の高い分野である水の問題を抱えるベトナム訪問も,殿下が以前からおっしゃっています公務の見直しについて何かしらの手がかりになりますでしょうか。また,天皇陛下と雅子妃殿下もストレスによってご病気をなされたようですけれども,新しい皇室・公務のあり方についてのお悩みも,お心のご負担になっているということはありますでしょうか。

皇太子殿下

水の問題は,今や世界が直面している地球温暖化を含む環境問題や資源問題の重要な課題の一つとなっており,個人的に大きな関心を寄せています。また,国連事務総長からの要請を受け,国連「水と衛生に関する諮問委員会」の名誉総裁に就任しており,国際会議への出席などを通じて,水の問題の重要性を広く皆さんに知っていただきたいと努めております。今回視察するメコン河は,この地域の主要な国際河川であり,その視察を通じて,私の研究を更に深めることができ,それが公務を果たす上で幾らかでも役立つことができればと思っております。